仕方ない餞

数日に一回のひと山越えたと思う日で、急ぎの書き物の宿題なんか一つもないのに喫茶店にきた。恐らくひと山越えたというよりは嵐を凌いだとかのほうが正しいのだと思う。死ななかっただけで目の前に山はずっと聳え立っている。足腰が死なない限りは下山しない。登り切ることはあるのだろうか。はやく登頂したいが終わりがあるなんてつまらないような気もする。落ち着きたいと落ち着いていられないが常に共存している。矛盾しているようで抗えない対立な気もする。ああ、どうでもいい。どうでもいいことだ。

 

MOROHAのアルバムをちゃんと聴いてみたら、殆どライブで先に聴いたことのある曲で、本当の本当に初めて聴くのは1曲だけだった。その1曲は大して何も思わない曲だったし、ありがちなやつだなぁという感想で全てだった。ファンとしてあるまじき発言だが、MOROHAの楽曲は一番最初に聴いたときが一番いい。ビンタは一発目が一番興奮できるのと同じ理由。いやビンタは二発目三発目の方がいいだろうというプラカードを持った人々の列。「いや」からはじまるプラカードを作るなと思うハッピーターンのパッケージに印刷されるターン王子。ハッピーの要素を入れろと思う私。みんなで作る安全な社会。

歌詞カードなんか見ないで、ライブで初めて聴くのが一番いい。集中力が高まっているから、音も言葉も自然に入ってくる。それでいて都合のいい音や言葉だけ胸に刺さって勝手に感動したり涙を流したりできる。刺さっているというよりかは落ちてきたガラス片を手に取って自分に刺しているだけなような気もする。己で勝手に気持ちよくなるのが許されてしまう空間だから甘えてしまう。別にダメなことでもないのだけれども。音源になって改めて聴いてみると、恋だとか愛だとかを歌っていて「これに感動できるほどお前は何かを知っているのか、感動できるほどの情報を持ち合わせているのか」とかを考えてしまう。歌詞を受け取るのが向いていない。意味が向いていない。意味を考えるのはやめにするべきだ。ピエロが作ったシフト表の精巧さ。望遠鏡で覗いていると思ったら月が私を覗き込んでいたから、驚き仰け反って地獄に落ちてしまったバイトリーダー。ピエロはバイトリーダーではない。

 

恋人について数行書いたけれど、なんだかよくない気がして全部消した。惚気でもなければ悪口でもなく、未来のことというのが正しいようなことを消した。なんとなく。他人のことを案じても仕方がない。人との関係性は考えたところで何も変わらないから、悩まないに越したことがない。悩む必要がない。元々こんな考えを持っているからアドラー心理学のあの本を読んだときに何も感動がなかった。まぁそうだよね、くらいだった。嫌われる勇気とかの前に他人に嫌われることに対して何も思わない。思っても仕方ない。

 

仕方ないが口癖になってきている。口癖というのは心の中で喋り続けている言葉も含めてなので、発声はあまりしていないかもしれない。でも仕方ないと片付けることに頼りすぎなような気がする。「だからなんだ」と肩を並べる2大おそうじワード。仕方ないという言葉を使うことには良い側面と悪い側面があるから考えても仕方ない。仕方ないのウロボロス。仕方ないの万華鏡。仕方ないの迷宮。やる気に満ち溢れているようで全てに冷め切っているような自分が未だよくわからない。感受性が豊かなのに最終的にはそれらをたかが自分の受け取り方だと突き放す。自分で自分を突き放して、くっつかないようにしている。私が楽しんだり熱中していると外側の私が出てきて、全ては小さな世界の出来事だと知らしめる。わからないわけではない。小さな世界で生きるのが嫌だから内と外に私がいる。内で盛り上がっていると外から横槍を入れてくる。あくまでも、大したことのない、小さな出来事、というようにオチをつける。外側の私を消したら内側の私も私ではなくなってしまうような気がするから、今更これをどうこう変えるのは無理だろうなと思う。内と外を行き来している人をこれからの人生で少しずつ見つけられたら嬉しい。見つけてどうしたいわけでもないけれど。この人も外側に行けるんだなと思って、それでだからなんだと思いたい、くらいだろうか。


0613

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何もやる気が起きないなあと思ったけれど、朝バイトに行って洗濯して今からバイト行って夜ライブに行こうとしていて十分なのかもしれない。でも何もしていないといえば何もしていない。何かをしたい、何かをしなければならない、何もしていないの範囲が広がっている、何をすれば何かをしたことになるのだろうか。

一回欲望を吐き出すことにしよう。

 

カラオケに行きたい、ネイルをしたい、喫茶店に行きたい、本を読みたい、海を見たい、花をみたい、水族館に行きたい、静かな神社に行きたい、大喜利したい、時間を考えたくない、一度全部を忘れたい、もしかして何もしたくない?

 

そう気付いた瞬間辺りは灰になった、風の所為で目がやられた、ようやく目をあけたときにはアルバイトに行っている。つらいとかは思わない。休みたいとかも多分思っていない。そこまで考える脳みそもないのだろうか。

友人が心身をしっかり壊しているようだが、何も助けてあげられることがなさそうで困った。困ったところで何もできない。仕方ない。仕方のない人間。仕方なし。本当にそうですかね。何かをなすためにやってきたのか。愚か。愚か。私に誠実さはあるのか。考えたらまた灰の世界に連れて行かれるよ。全部がなくなったらどうだろう。灰なのは周りじゃなくて自分だけなんじゃないですか。美しい世界。美しい灰。美しいと言えばなんでも美しい。仕方のないこと。