溷濁の生活/綺麗は汚い

月が綺麗だった。その前の日も月が綺麗だった。月が見えて汚いと思ったことは一度もない。見えないか綺麗か、の2択なのが月だと思っている。でもそこに辿り着くまでに見るか見ないかの2択もある。何もかも全て忘れてしまっても首を少し上に傾けると月が見えることだけは忘れたくない。それさえ覚えていれば、綺麗だと思えるはずだから。これは綺麗事ではなくて戯言。夢言。

ここ数日は仕事が忙しくないおかげでたくさん歩けていて幸せ。幾度となく歩いた恵比寿と渋谷の間の道を久々に夜ひとりで歩いた。この辺りに用ができてから10年近く経とうとしている。本当にしょっちゅう来ていたところなのに、めっきり来なくなってしまった。一度も入ることのなかった店が潰れ、偽物の昭和みたいな飲食店が数軒できている。最近は偽物の昭和みたいな店ばかりあちこちにできている気がする。繁華街には偽物の東京みたいな店が多い。新規で偽物を作っていて、建てている人も働いている人も空虚感に苛まれていないだろうか。偽物だと思っているのが私だけだったらきっと偽物なのは私だけれど、私は私を本物だと思っているわけでこのお話はおしまい。
恵比寿と渋谷のちょうど中間の、山手線線路を越えるための歩道橋。傾斜がキツく古びているが、電車がよく見えてなかなかいい景色を眺められる。大していい思い出はないがよくここを通っていた。老朽化によって取り壊されるらしい。それで新しくなるとのこと。私なんかより思い入れがある人はたくさんいるだろうから悲しむ権利もないだろうけれど、やはり寂しさは感じてしまう。記憶から薄れていってしまうだろうなと思うと、寂しい。新しい歩道橋ができた日には、綺麗さっぱり上書きされてしまうことだろう。それで寂しいなんて気持ちも忘れるのだけれど。

渋谷駅を目前にすると、新しい建物がどんどん目に入ってくる。再開発される前の、線路沿いの雑貨屋や服屋、ドラッグストアの景色は既に色褪せて薄くなってきている。歩行者用通路が工事が進むたびにあちらこちらへ移動していたことで、記憶がより混沌としている。ようやくまた新たな建物が完成しそう。開発前のあの記憶はもう8年くらい前だ。写真にでも撮っておけばよかったのに。工事途中の段階で線路沿いにアサガオが咲いていたのを覚えている。たしか落ち込みながら歩いていた暑い日に咲いていた。あの道ももうなくなってしまった。アサガオもなくなったのだろうな。それでも寂しいと言う筋合いはない。私が育てていないアサガオだし。
東急が壊されて新しいビルになって、スクランブルスクエアも建って、恵比寿方面の線路沿いの建物もできそうで。そんなに建てて一体何になるの。そんなにがんばらなくていいよ。大きく見えてしまう錯覚だといいけどな。実際はどうせ、でかい段ボールにUSB1つ入っているだけのAmazonの梱包みたいなことなんでしょう。ビルが大きくて中身は何もない。お台場。スカスカ。意味なんかなくたっていいんだよ。無理しないでと言いたいの。いつか限界が来るはずだし。

 

家の近所に頭の悪い高校がある。ヤンキー校というよりはあまり学校が得意じゃなさそうなタイプの子が多そうな。そこの制服を着ている人とすれ違うといつも胃が痛くなる。パッとしない男性の高校生が複数人でわちゃわちゃしているのも、どうにか取り繕っている女性がいるのも胃が痛い。最近はどの角度から見ても地味で暗い男と女のカップルが通学しているところをよく見かける。前髪が重くて制服の着こなしもダサくて、決してよいと言えるスタイルではなくて、2人でイチャイチャしている。男が女の頭をぽんぽんしたりしている。胃が痛い。この胃の痛みはなんだろうと考えた時に、学生アレルギーと童貞アレルギーとダサアレルギーと周りの見えていないお花畑さへの羞恥は当たり前として、未来への苦しみだと感じた。今は2人の世界でも、これから先このまま生きていくのは不可能と言っていいくらい難しい。いざ社会に出て自分の力で生きていくとなったとき、今見えている世界と比べ物にならない広さを感じると思う。周りを見た瞬間に、いかに自分が何も気を使ってこなかったかに気づくし、過去を顧みて嫌になると思う。それでのちに黒歴史とかっていうんだよ。黒歴史なんてこの世になくていいのに。歴史は歴史なのに。黒くしているのは過去の自分ではなくて現時点での自分でしょう。嫌ね。
なんてお節介すぎるだろ今が幸せなんだからそれでいいだろうと、自分で自分の太ももをぶん殴って忘れる。でもここに書いている時点で忘れられてはいない。周りが見えていない若者を見るのは心苦しい。いつか社会を見る羽目になるのだとわかっているから苦しい。自分にできることは何もない。

学生アレルギーはいつになったら治るのだろう。学生を見ると心が陰る。嫌なことを思い出すわけではないし、そもそも自分はいじめを受けていた経験もない(はず)。コンプレックスもない。高校生だけでなく、中学生を見ても小学生を見ても陰る。ちっちゃい子供はだいすき。学生の頃の社会の狭さが苦しい。社会はこれじゃないとわかりながら狭い場所で暮らすのが苦痛で仕方なかった。学生は狭い社会の生き物だからきっと見ると苦しくなってしまうのだと思う。はしゃいでいるグループとかダメだ。ダメだ。私が悪いのか。私が悪いよな。少数派だし。学校っていうのは多数決の場所だから。連帯責任とかですよね。了解です。

私は本当に最悪の学生だった。これは黒歴史ではなく私の意見でもなく事実で、だ。何の意味があるのだろうと常に思いながら課題をこなしていた。時間がないけど提出しなければならないから、答えを写して、どうせ合っているのに丸をつける。あまりにも正解だと逆に指摘されるから適当に間違える。赤ペンでチェックして正しい答えを書く。頭は使っていない。手と時間だけを使っている。それに意味がないということをわかっていたから辛かった。でもとにかく余裕がなかったので仕方なかった。真っ向から取り組みたいとも思ったが、その時間と元気はなかった。時間がある時にまとめてやれればいいのに、提出しないで放っておくと呼び出されてまた長々と時間を食われる。説教をする人だって私がどうなろうがどうでもいいだろうに。この人だって内心長々喋りたくないのだろうなぁとか思って、目の前の人の言葉が全く入ってこない。
全校集会で生徒指導係の先生が長々と喋っている。生徒の一部はうとうとしている。首を下に向けている者も多い。体育館を見渡す。先生も眠そうにしている。半分寝ている先生もいる。真剣に聞いている人は1人もいない。お金をもらっている勤務中の人が聞いていない話をお金をもらっていない若者が聞くわけないだろうと思っていた。腹が立つので真剣に聞いて、メモを取ることもあった。誰に見てもらうわけでも褒められるわけでもなかったけれど、自分にできる抗いのなかの抗いだったのだと思う。

とにかく提出物の多い学校だった。不必要な記録をたくさんつけさせられた。夏休みのしおりとか、毎日何の課題を何時間やったか書かされるやつとか。一番厄介だったのが数学。数学の問題集を解くのにチェックシートがあり、大問ひとつずつに感想を書く欄があった。いつ解いたか、どこを間違えたか、今後何を気をつけるか、などを一つずつ書かなければならない。答えを写しただけでは終わらず、これを一つ一つやるのにとにかく時間がかかる。毎日通学して7時間授業を受けて、夜や休日に仕事に行って、最後の方は原稿の仕事もしていた。数学が好きではなかった。解いてもいない数学の問題の感想を書くなんて苦痛以外での何物でもなく、それでもそれを書かないと提出していない扱いにされる。ただでさえ授業を休んでいるので、最低限提出分を出さないと単位をもらえない。単位をもらえないとそれまでに割いた時間全てが無駄になる。だから仕方なく、提出日の夜中から朝方にかけてずっとチェックシートを記入していた。こんな手間のかかることは、内職だったらお金が発生するだろうに、アルバイトだったら賃金がもらえるのに、と思っていた。でもその頃はアルバイトはしていなかったから、働くってこんな簡単なことじゃないか、と自分を慰めていた。
アルバイトを幾つかした私はあの頃の自分に言いたい。アルバイトは数学のチェックシート記入よりもラクで楽しくて、それでいてお金がもらえる。だからやっぱり学校はおかしい。
原稿料がもらえる文章を書き終えた後に、現代文の課題として出されているテーマを設けられた作文を書く。さっきの文章は好きなことを書いてお金がもらえたのに、好きでもないことを同じくらいの文字数で書いてお金がもらえないのは意味がわからないと思っていた。お金ベースで考えているクソガキだが、間違っているとも言えない。労働力を使っている以上、絶対に見返りが必要で、現代文のその課題では何の経験値も得られなかった上に時間を使った。これらは一部に過ぎないけれど、教師が嘘で塗り固めた小さな学校という社会で生きるのはとにかく向いていなかった。そのせいで、元々好きだった勉強もしなくなってしまった。今やりたいことが落ち着いて、気持ちに余裕もできたらきっと私は勉強をすると思う。誰にも何にも縛られずに勉強をしたい。今の所は全く勉強したくない。

可愛い女の子と遊んだ。私は国レベルで可愛い女の子の知り合いが何人もいるのでかなり無敵。少しばかり嫌なことがあっても、可愛い友達がいるからなぁと思える。可愛い子は性格が悪いと言っている人は、本物の可愛い子に出会えていない可哀想な人。世の中には可愛くて面白い良い子も全然いる。すごい。可愛い女の子は私に誕生日だったからとプレゼントをくれた。可愛い女の子がくれたのは、可愛い女の子が選んだ可愛い靴下と可愛いイヤリング。こちらこそ生まれてきてくれてありがとう、だ。彼女とはそこそこ趣味が合うので、お互いに最近オススメの街や店、喫茶店のプレゼン合戦をした。それでお互いから聞いた情報を携帯にメモする。喫茶店に行った記録をつけているInstagramをしているよ、と話したら彼女の閲覧用アカウントでフォローしてくれた。非公開アカウントだったけれどこちらもフォローリクエストを送ったら、フォローを通してくれた。投稿を見て、アカウントをよく見たらフォロワーが1となっていた。誰にも見せていなかったアカウントを私に教えてくれたのはもう恋というか何というか。結婚したい。こういう可愛い女の子が家にいたら週160時間くらい働けると思う。世の中の生産性を上げるためには可愛い女の子が必要だが、やはり圧倒的に数が足りていない。不便な世界。これを何回聴いたかわからない。

https://on.soundcloud.com/g3jUhc9pkrnvCGsh7


野球観戦に連れて行ってもらった。野球に全く興味がなかった私が急成長しどうにかWBCも見て、ついに球場で野球をみることに。相当詳しい人に連れて行ってもらったので、逐一疑問点を投げかけて解消しながら見られてとても楽しかった。何回か集中力が切れてしまい、スマホ見ている間にヒットしていることもあったけれどおもしろかった。球場の肉うどんは美味しすぎて、野球も見られる肉うどん屋さんなんだなぁと思う。阪神対ヤクルトの神宮球場だったが連勝していた効果で阪神ファンのほうが多く、ヤクルトがアウェイになっている変な状態だった。阪神ファンの中にちゃんと熱量ある輩みたいなのがいてよかった。後ろに阪神ファンの仕事終わりスーツ関西弁おじさん4人組がいて,その人たちの話にずっと耳を傾けていた。AIでもベタすぎるか、と避けるくらいには中央値の関西のおっさんの会話で最高。フランクフルト買ってきて「理想のサイズやな!」「何がや!」とか言ってた。
観戦者にTシャツをプレゼントする時間には「あれ何配っとるんや」「パンツちゃうか」「つば九郎の女の子のやつやろ」「ちょっと走って取ってくるわ」とか言ってた。
もう試合が終わるぞ、という局面で「今日は長くなりそうやなぁ〜」とか言ってた。
あと1人のおじさんが全員分の17アイス買って配ってた。バニラでカラフルなチョコスプレーが入っている一番可愛いやつ買ってた。みんなで食べていた。私の楽園は野球場なのかもしれない。パライソ。通おうかな。野球のチケットってtigetで出してるのかしら。選手への取り置きか。

ここまで、恋人との待ち合わせ前に喫茶店でへこへこ書いた。工夫なしで書けば短時間で大量に書けるけれど、「あいうえおかきくけこ」と書いているくらいには何でもない。頭をあまり使わないで書いている。何もしていないに等しい。何もしていない私を許してください。
仕事終わりに赤坂で合流して私の家の方まで車で向かったが、死ぬほど渋滞していたせいで着いた頃には20時だった。途中2本おすすめのアニメを見せられた。1本目は青春すぎて途中途中苦虫噛み潰しフェイスになったが、2本目はSFで面白かった。相変わらず会話の内容は思い出せないくらいのこと。私の住んでいる土地のイタリアンで食事をする。例の如く2人でしこたま食う。遠出をしたいねと予定を擦り合わせようとするが悉く空いている日が合わない。カレンダーを見て「〇日は?」「無理だ」の繰り返し。向こうが忙しいのはもちろんのこと、私も私で肝心な時に限って予定が入っている。最後に遠出をしてから3ヶ月くらい経ちそう。会う頻度はそこまで低くはないけれど、いつも数時間向こうの家に滞在するくらい。〇〇行きたいね、〇〇したいね、が溜まっていつのまにか引いているような気がした。それで気づいたのだが、どうやら私は寂しいらしい。しばらく先まで予定が合わないのを目で確認したことで急に押し寄せてきた。寂しいなんて思ったことないけれど、寂しいを感じないような生き方をしていただけなのかも。会わないと少しずつ忘れていくとずっと思っていたが違うかもしれない。意識の外で忘れようとして忘れている。
完全に自分に騙されていた。自動操縦は恐ろしい。無意識に悲しみや寂しさや辛さを回避する記憶の取捨選択をして私の精神衛生は保たれている。そうやって弱さを排除しながら人らしさや優しさを失っているのだとわかった。これに気づいてしまったのが悲しかった。気づかないことも含めて強さなのに。

なんてことを書いたが寝て起きたらどうってことなかった。文字で読み返しても特に悲しくない。やっぱりまっすぐ忘れている部分が大きい。考えすぎ。自分の頭の弱さをなめるんじゃない。

好きな作家が毎日ブログに日記をあげるようになったので読んでいる。作品に反して日記はシンプルで地味だ。淡白なのに影響を受けて後半を書いた。たまにはいいけれど、もう少しだけふざけないと面白くないか。今抱えている仕事を終わらせたら久々にnoteを書きたい。面白いことが何なのか忘れてしまっているのではないか。頼まれている記事、連載2本、表向きのブログを来週までに全て終わらせるにはどうしようか。音楽を作りたい。早くDTMも会得して新たな試みを始めたいのに。眠い。寝ているのに。削ぎ落として残る欲求は書きたい歌いたい笑いたいかもしれない。眠いは欲求ではなくて強制シャットダウン。寝たいと思ったことはない。